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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)8143号 判決 1965年2月08日

原告 荻野長治

被告 国

訴訟代理人 長野潔 外一名

主文

原告の講求を棄卸する。

訴訟費甫は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告がその主張の日にその主張の被告所有地を被告から買受けたことは当事者間に争いがなく、又右売買は訴外大和建設を介して(大和建設が被告を代理したか、単に仲立をしたにすぎないかの点は除く。)なされたことも当事者間に争いがない。更に成立に争いのない甲第三号証証人高倉秩多蔵の証言、原告本人尋問の結果を綜合すれば、右売買は公簿上の面積を基礎として行われたこと、その際大和建設社員高倉秩多蔵が原告に対し右売買目的地一帯が区画整理により公簿面積により仮換地の指定を受けるから実測坪敷が公簿面積より小さくとも損はしない。その趣旨のことを原告に告げ、原告は実測坪数が公簿面積より三〇坪位不足であることを承知して前記売買契約を締結したことが認められる。しかし右区画整理事業は東京都の事業でありこのことは原告も知つていたことは証人高倉の証言により推認されるところ、被告の権限が直接及ばない区画整理につき高倉が前記の趣旨のことを原告に告げたこと、これが当然に被告の代理人としての意思表示となるのは認めがたい。(蓋し、代理権を授興された意思表示が全て当然に代理人としての意思表示とはならず、本人の処分権限に属する事項、或いは属するものとされる事項に関する意思表示にしてはじめて代理行為の成立を認め得るからである。もし原告が「仮換地につき被告が損害担保契約を締結した。」とでも主張するならば、そこに代理行為の成否を問題にする余地はある。しかし、かかる主張はなされていない。)

右の如く代理行為の成立について立証なき以上、代理権の存否、或いは表見代理の成否を判断するまでもなく、原告の請求のうち債務不履行による損害賠償請求は失当である。

二、次に原告は「代理人の不法行為により被告に民法第七〇九条の責任が生ずる。」と主張する。しかし代理人の不法行為につき本人が第七〇九条の責任を負担するのは代理人が本人の指示にもとづいて不法行為をなした場合、或いは代理人と本人の共諜関係の存する場合、又は代理人選任上の過失が直接不法行為を構成する場合にかぎられるところ右のいずれについても主張立証は存しない。(右以外の場合は本人、代理人間の使用関係を主張立証し民法第七一五条による使用者責任を追求すべきところ、原告はかかる主張立証はなさない。)よつてその余の事実を判断するまでもなく、原告の請求のうち不法行為による損害賠償請求も又失当である。

三、よつて原告の請求はすべて失当として棄却すべく、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍岡稔)

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